深川麻衣×末永幸歩|世界をひろげるアートのミカタ
- Photograph
- Kei Matsuura(QUI/STUDIO UNI)
- Styling
- Miku Hara
- HairMake
- Aya Murakami
- Text
- ぷらいまり。
- Art Direction
- Kazuaki Hayashi(QUI/STUDIO UNI)
- Edit
- Seiko Inomata(QUI)
- Produce
- Shun Okabe(QUI)
アートに正しい鑑賞方法はない。でも、アートをもっと楽しむためのヒントならある。感じたことを自由に表現しながら新しい視点を探る「アウトプット鑑賞」を提唱する、『13歳からのアート思考』(ダイヤモンド社)の著者であり、美術教師でもある末永幸歩さんの鑑賞方法をゲストとともに実践し、いま注目の美術展をめぐる連載企画。
第五回のゲストは、女優の深川麻衣さん。学生時代に美術を学び、普段から美術館を訪問したり、イラストやグッズデザインなども手がける深川さんとともに、作品をじっくり見て、感じたことを書き出し、そこから短い物語を紡ぐ「アウトプット鑑賞」を体験しました
Index
- P.1 じっくりと作品を観て 気づいたこと・感じたことを書き出すアウトプット鑑賞/「わからない」から記憶をたどる。作品から生まれた短い物語。
- P.2 山田紗世さんの作品から「気になった作品」をピックアップ/作者の山田紗世さんとともに 作品を鑑賞
- P.3 中迫梨恵さんの《半透明の外皮》をアウトプット鑑賞
- P.4 作者の中迫梨恵さんとともに 作品を鑑賞
- P.5 深川麻衣のひとこと
山田紗世さんの作品から「気になった作品」をピックアップ
続いては、3階に展示されている山田紗世さんの作品から、深川さんになんとなく「気になった作品」を直感で選んでいただきました。そのあと、「なぜ、気になったのか」を考えました。深川さんが選んだのは、ラベンダーや緑を基調とした画面に、大きな犬と婦人が組み合わされた作品です。
山田紗世《大きな犬と婦人(A big dog and a woman)》
深川:まず、ぱっと見たときに、自分が好きな配色だったんです。ラベンダーっぽい色や緑とか。あと、構図がとても面白くて。大きいワンちゃんと婦人が、どうして組み合わされているのか気になりました。
それから、色の使い方がすごく大胆ですよね。絵を描くときって、力んでしまいそうな感じがするんですけれど、これは童心に帰ったような迫力があります。「描くぞ」という力みというよりは、スケッチをしているような楽しさも感じました。
計算して描かれているのか、それとも自分の頭の中にあるものを描き出すように作られているのか…そのあたりがとても気になりますね。
さらに深川さんが注目したのは、画面に混ざり合うさまざまな質感でした。
深川:手描きのようにも、スタンプのようにも見えたり。ところどころ、しぶきっぽかったり、ピクセルのように見える部分もあったりと、デジタルっぽさもミックスされているような、新感覚の質感がすごく面白いです。
山田紗世《大きな犬と婦人(A big dog and a woman)》(部分)作者の山田紗世さんとともに 作品を鑑賞
今回は、作者の山田紗世さんに深川さんのアウトプットを聞いていただきました。
山田:深川さんがフォーカスしてくださった部分が、自分がそれぞれの画材の特徴を活かして描いているところだったので嬉しいです。
「ピクセルっぽい」というのは、私が大事にしているシルクスクリーンの技法を使ったところですし、私が描く中で特に大事にしているのは、絵の具を使ったところなんです。
まさに自分が「好きだな」と思っているところに気づいてくださったと感じました。
山田:自分のスケジュール帳に小さなドローイングを描いているんですよ。ここに描いたのが、まさにこの作品のワンちゃんです。
深川:ワンちゃんの顔の横の部分は手だったんですね!作品を拝見したときには、耳だと思っていました。これが原画ということですね。
山田:シルクスクリーン(版画の技法)は、原稿を作る時点で好きな大きさに拡大できます。拡大するときに画質が荒くなって、ピクセル状になったりしているんです。こうして描いた全く違うモチーフや題材を組み合わせて、その画面を調整して、そこに手彩色を加えるような感覚で制作しています。
深川:最初にキャンバスの地の色を決めて作っていくんですか?
山田:この作品では、背景になっているマーブル調のラベンダー色の部分を最初につくりました。ここもシルクスクリーンなんですが、インクをあえて混ぜきらずに刷っているんです。その上に、先ほどのドローイングの線のモチーフを刷って、それをパネルに貼った後で、さらに手で彩色をしています。
最初に作品のイメージをはっきりと決めてから制作するというよりは、「このワンちゃんをこのくらいのサイズにしてみよう」とか、手を動かしながら決めています。そこから自分に課題を与えるように、どうやったら良くなるのかをずっと繰り返しながら、「これでいいな。もう描いちゃだめだな」というタイミングを決めている感覚です。
深川さんが感じ取った色や質感の面白さや、画面から伝わる楽しい感覚は、山田さん自身が制作で大切にしていることとも重なっていました。
― Profile _ 山田紗世(やまだ・さよ)/gekilin.
1998年生まれ。大阪府在住。美術家。シルクスクリーンの技法を駆使し、セレンディピティを頼りに手彩色を施すことで絵の具と版画のレイヤーを重ね合わせる表現を追求している。日頃から書き溜めているドローイングをスキャンして作る原稿はその際に出てしまった汚れなどもそのまま反映させ、版に落とし込むことで、静的な線と動的な色彩の調和を生み出す。このプロセスでは、手作業による偶然性を大切にし、計算された版と自由な彩色が交錯する瞬間を表現している。シルクスクリーンによる精緻な形状と、モノタイプならではの一度きりの印象が融合することで、視覚的なリズムと層を感じさせる作品が生まれる。版は一種のコピーペーストであり、同じ版を全く別の作品に使用することによって版の複数性も大事にしている。日頃から書き溜めているドローイングは生活から得たモチーフと作者の思う命をかき混ぜた小さなパーツのようなものが多く、何度も意識の片隅を見つめる工程となる。