STANDARD TALK 55
アサダワタル トーク会『当事場をつくる』刊行記念
アーティスト活動を続けながら福祉にも携わってきたアサダワタルの新刊『当事場をつくる』が刊行されました。福祉の現場には「支援される側」と「支援する側」が存在します。言い換えれば「当事者」と「非当事者」。著者アサダワタルは「支援される側」だけが「当事者」なのか?と疑問を抱きます。「支援する側」が支援される側に対して(時に上から目線で)現状の改善を押し付け、「される側」の人にだけ一方的に変化を求めるのはおかしいのではないか?と。
一般的には「する側」がルールを作り、「される側」にルールの遵守を求めます。しかし、一体何が正しくて、何が正しくないのでしょう?
「される側」は様々な「表現」をします。例えば、ルールに違反して壁に絵を描きます。それを見た「する側」がそこに「美」を発見したり、みんなと一緒に楽器演奏ができず、一人で勝手気ままに楽器を打ち鳴らした人のリズムに豊かな「感性」を感じることもあります。「支援」という行為は「表現」を通して考えると、感性的・美的な「まなざし」を持つことができ、「支援する側」も変化していることに気付きます。「される側」の行った「表現」に「感染」しているのです。「支援される側」と「する側」、「当事者」と「非当事者」と思われていた関係性が崩れ、互いを「同志」として捉えることができると支援の間口が広がります。人は誰しも重層的で「私」の中に様々な「私」を有しています。お互いにそれを尊重し合い、さらけ出す覚悟が必要です。そんな場を著者は『当事場』と名付けました。
本書で印象的だったのはラジオというオールドメディアを使った話です。ひょんなことから「される側」の高崎くんがラジオ番組でDJを務めることになりましたが、頑張り続けた結果、プレッシャーでダウン。番組の打切りが検討されましたが、まず著者がDJのピンチヒッターとなります。その後裏方に回ります。そして番組をサポートしていた「する側」の人が代わりにDJとなったり、別の「される側」の人・白井くんがDJとなり番組を続けます。「支援する側」の人たちは最初ラジオという「舟」に乗らず、「港」でサポートしていましたが、いつの間にやら巻き込まれ「同志」となっていました。「港」にいるだけでなく「舟」に直接乗り込む。それこそが『当事場』です。著者アサダは2009年頃、『住み開き』と名付け、自宅をカフェ、ギャラリー、教室として開放し、新しいコミュニティを創造しました。以来、『場づくり』と『コミュニティ』をテーマに活動します。「耳から届ける福祉」といえるこのラジオの取組はアサダワタルの真骨頂です。
福祉というと自分には無関係だと思われる方も多いですが、身内の高齢化、地震や豪雨による被災等実は身近に存在します。あなたも「当事者」になる可能性は大きいのです。また、仕事のみならずプライベートでも他人と「場」を共有することはしばしばあります。本書はそんな『場づくり』の参考になるはずです。本屋という『場づくり』に新たに取り組まんとする私も、いま改めてアサダワタルの話を聞いてみようと思ったのです。「私」が本当にしたいことは何なのか?そんなことをお考えの皆様、ご参加をお待ちしております。
スタンダードブックストア/中川和彦
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STANDARD TALK 55
アサダワタルトーク、『当事場をつくる』刊行記念
[日時]10月22日(水)18:30-20:00*全席自由
[会場]パルコ心斎橋店4F丸福珈琲店 Good Old & New Edition
[登壇者]アサダワタル、中川和彦(スタンダードブックストア)
[料金]¥1,500 *1drink&丸福珈琲店お土産つき
[予約方法]下記URLよりお申し込みください。
https://online.parco.jp/shop/g/gP028915-00039/
【プロフィール】
アサダワタル
文化活動家、近畿大学文芸学部准教授。1979年大阪生まれ。滋賀県立大学大学院環境科学研究科博士後期課程満期退学、博士(学術)。これまでにない不思議なやり方で他者と関わることを「アート」と捉え、全国の福祉施設や復興団地でプロジェクトやワークショップを実施。その経験を著作や音楽作品として発表している。著作に〈住み聞き増補版 もう一つのコミュニティづくり』(筑摩書房)、『想起の音楽 表現・記憶・コミュニティ』(水曜社)、『アール・ブリュット アート 日本』(平凡社、編著)など多数。CD作品『福島ソングスケイプ』(アサダワタルと下神白団地のみなさん)でグッドデザイン賞2022受賞。ホームヘルパー2級取得者。(写真提供:まえとあと 撮影:平林克)