ART&CULTURE / 2020.10.30
Re:BIRTH!
箭内道彦と小杉幸一がビジュアルに込めたもの(1/2)
赤と青の卵、卵から孵った池松壮亮とコムアイ。心斎橋PARCOのオープン広告を担当したクリエイティブディレクターの箭内道彦さんとアートディレクターの小杉幸一さんが過ごしたコロナ禍の数ヶ月間。思ったこと、感じたこと、ビジュアルに込めた思いを語っていただきました。
エネルギーの鼓動を感じる「卵」
――心斎橋PARCOのオープンを、最初どんなふうに受け取りましたか?
箭内道彦:ゼロからのまったく新しい存在じゃなくて、「復活する、久しぶりに帰ってくる」ということに、面白さとやりがいを感じました。新しいものとして復活する心斎橋PARCOがどんなビルになって、どんなふうに街に影響を与えていくのか、非常にワクワクしましたね。小杉くんと僕は、LINEでやりとりをしながら仕事を進めていくスタイルなんですけど、履歴を見返すと今年の4月、最初にパルコさんから相談をもらった日に、「卵」のアイデアが生まれていますね。
小杉幸一:箭内さんからは「エネルギーを感じる卵」というディレクションがありました。ずっとおっしゃっていたのは、表面的じゃなくて内側からエネルギーを感じる卵、ということ。「タマゴアーティストになれ!」みたいなことも言われました(笑)。あらゆる卵をつくり続けた数ヶ月間でした。
箭内:卵が孵る寸前の状態をティザーの広告で表現して、そこから生まれてくる存在ということを今回のオープンになぞらえました。とてもベタなアイデアなんですけど、ベタだからこその伝わりやすさと逃げ道のない真っ直ぐさが、心斎橋PARCOのオープンにはふさわしいと思ったんです。小杉くんにはとにかくいろいろな卵を考えてもらいました。鶏でも恐竜でもワニでもトカゲでもない卵ってなんだろうと、LINEでやりとしながら、フォルム、色、表現の技法、あらゆる卵を産み落としてくれました。
小杉:箭内さんとのやりとりの中で、エネルギーとは何かと考えたときに、ひとつグラデーションという表現に行き着いたところがあって。赤と青は、動脈と静脈の色で血の意味合いもあるし、情熱と冷静さという振り幅のある2つの感情をイメージさせる色でもあるので、その2色をひとつにしたグラデーションの表現は、エネルギーをアイコニックに感じさせるものになったかなと思っています。
箭内:途中で小杉くんが心斎橋の「心」っていう字を、グラデーションの中に埋め込んだところで、一度魂が入ったな、唯一無二の卵になったなと思いました。やっぱり中身の詰まった、生命の胎動が聞こえてくるような立体的な表現にしたかったんですが、ただ陰影を付ければいいのかというと、それはPARCOらしくないと思った。平面的なんだけど奥行きがあるというか、紙やディスプレイの上にあるんだけど温度が感じられるというか……。難しいイメージを、小杉くんが見事に表現してくれました。
ビジュアルで会話するデザイナー
――どういうLINEのやりとりで完成に近づいていったんですか?
箭内:グラフィックデザインって頭でっかちにつくっていくと、言葉があってコンセプトがあって、ビジュアルに昇華していくんですが、小杉くんの場合はそこが切り分けられてないんですよね。頭と指先とMacが直結しているから、「日本語、英語、スペイン語、中国語、小杉のビジュアル」みたいな並列の関係でグラフィックデザインが存在していると感じます。LINEのスタンプって明確に言葉に置き換えられないじゃないですか? スタンプみたいなものだと思います。そんな感じなので、こういう場で作品について言葉で説明することが非常に向いてない(笑)。
小杉:箭内さんはそう仰ってくれますが(笑)、今までは言葉で規定してからデザインした方がスムーズなこともあったと思います。ただ今回のプロジェクトに関しては、コロナ禍という時代感と箭内さんとの仕事ということを考えると、僕の場合はビジュアルで会話していく方が性に合ってました。完成形まで持っていって見てもらうのではなくて、ひとつの会話としてグラフィックデザインを送って、それを見てどういう言葉を返してくれるだろう、と。怒られるかもしれないんですが、箭内さんがクレバーに整理してくれるので、悩んだときも「一回送っちゃおう!」みたいな(笑)。送れば箭内さんが言語化してくれるという感覚がありました。
箭内:結構、大変なんですよ。小杉くんからLINEでビジュアルが届くと見ちゃうでしょ。でも既読が付いて、そこから数分以内でシャープな指示を送るというのは、自分に課していた枷なんです。これが1時間経ってからボールを返しても、小杉くんは言葉の代わりに絵を送ってくれているわけだから、それはラリーにならない。パルコさんには「もっと時間をかけて考えてよ」って思われるくらいに、ものすごく短い時間でやりとりしていたと思います。ただ、その速さから生まれるものが絶対あると思うので。
小杉:きちんとすべての指示が詳細に伝わってくるというような形ではなかったので、会話の間に生まれた隙とか、思い返すと時間軸もふまえて箭内さんの感情を読み解こうとしていましたね。
箭内:ありがたいことに、こちらの言葉に対して、小杉くんはどんなときも真っ直ぐ打ち返し続けてくれるんです。少しずらしたりしてそこから生まれる面白い表現もあったりするんですが、小杉くんは絶対にずらさず、逃げず。それはもう稀有な存在だと思います。
箭内:ありがたいことに、こちらの言葉に対して、小杉くんはどんなときも真っ直ぐ打ち返し続けてくれるんです。少しずらしたりしてそこから生まれる面白い表現もあったりするんですが、小杉くんは絶対にずらさず、逃げず。それはもう稀有な存在だと思います。
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