ART&CULTURE / 2020.10.30

Re:BIRTH!

箭内道彦と小杉幸一がビジュアルに込めたもの(2/2)

箭内道彦と小杉幸一がビジュアルに込めたもの

赤と青の卵、卵から孵った池松壮亮とコムアイ。心斎橋PARCOのオープン広告を担当したクリエイティブディレクターの箭内道彦さんとアートディレクターの小杉幸一さんが過ごしたコロナ禍の数ヶ月間。思ったこと、感じたこと、ビジュアルに込めた思いを語っていただきました。

池松壮亮とコムアイが踊るビジュアルについて

――「新しい日々が、はじまる」というコピーにはどんな想いを込めましたか?

箭内
:「新しい生活様式を」とか、いまいちよくわからない言葉が上から聞こえてくることが多い時世ですが、そうではなくて、「新しい日々」というのは自分たちでつくっていくものだ、という意思表明をしたいという気持ちがありました。「新しい生活様式に適した新しいPARCOです」じゃなくて、「私たちPARCOの考える新しさは、あなたと一緒に考える新しさです」というメッセージというか。ソーシャルディスタンスやオンラインの活用だけが新しさのあり方じゃなくて、もっとほかにもあるはず、一緒に考えましょう、という問いかけですね。
 
―また、今回の広告は衣装デザインを伊藤佐智子さん(渋谷PARCOがオープンした1973年の広告ビジュアルを石岡瑛子氏とともに手がける)が担当しています
 
箭内:伊藤さんはパルコさんにとっても特別な存在だと思います。今回、伊藤さんには、小杉くんがつくった「卵」のビジュアルを見せたうえで、制約なし、とにかく思い切ってアートをつくってください、というお願いをしました。あの「卵」から生まれた、二人の人物像をデザインして欲しいという依頼ですね。
 
小杉:池松さんとコムアイさんを食ってしまうわけではなく、かといってお二人の存在感に決して負けない絶妙なバランスの衣装だったと思います。実物よりも、写真や映像に落とし込んだときに初めて完成した感じのする、不思議な衣装でした。それと、衣装ができる前の「卵」ビジュアルで使っていた青は、もっと青々としていたんですが、伊藤さんがつくった池松さんの衣装は微妙に黄色が入っている青だった。僕にとってはその色合いがすごく印象的で。一言で言えない色って今の時代にあまり適してないのですが、今までに見たことのない新鮮さがありました。その新鮮さが起点になって「卵」のビジュアルが修正されて……、というフローが新しさにつながっていくんだと感じました。
 
箭内:写真や映像のディレクションをするとき、演者がいかに生き生きする場所をつくれるかというのは常に考えていることなんですが、伊藤さんの衣装はその意味でも起点になってくれました。アートディレクターの井上嗣也さんがミュージシャンを撮影するときに、真っ白な斜面をつくって、ただそこに立てって言ったんだそうです。するとミュージシャンは急な斜面に転んじゃいそうになるから、自然な動きだったり表情だったり、何かがそこで始まるわけですよ。それと同じことが、今回の撮影現場でも起こったんだと思います。見たことのないような不思議な衣装を着せられた二人が、だんだんいつもの二人じゃなくなっていきました。そのスイッチになったというのはとても大きなことで、結局、名優・池松壮亮が踊る姿を引き出してしまった。そういうことを可能するマジックが、あの衣装にはあったんだと思います。
 
――完成した広告ビジュアルが世に出ていくのを見て、何を感じましたか?
 
小杉:いろいろなところに起点があって、それぞれが発信とフィードバックを繰り返しながら、ビジュアルや映像に定着していくプロセスがすごく刺激的で楽しかったです。僕個人としても、今後チームという単位で関わっていくことが増えていく中で、個性のある人たちと出会い、一緒に仕事ができることを大切にしたいなと思いました。
 
箭内:「パルコ=ファッショナブル、最先端」。そういうイメージはもちろん大切にしなきゃならないことだと思います。だけど今回の広告ビジュアルからは、池松さんとコムアイさんの強い思いはもちろん、みんなが感じているコロナ禍の世の中への想いが滲み出ていて、センスだけじゃない非常に人間臭い広告になったと思うんですよね。人が写っていない「卵」のビジュアルにも感じましたが、パルコなのにどこか泥臭い。でも、今、すごく大事なことだと思います。


ポスター;

 

 

 

小杉さん・箭内さん;

 

 

 

箭内さん

箭内道彦

タワーレコード「NO MUSIC, NO LIFE.」など、数々の話題の広告をディレクション。「SPECIAL IN YOU.」、「Last Dance_」、「50周年のキービジュアル・記念ムービー」など、パルコの宣伝クリエイティブを長く手がけている。東京藝術大学美術学部デザイン科教授。

 

 

小杉さん

小杉幸一

1980年神奈川生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科。2019年株式会社博報堂を経て、2019年株式会社「onehappy」を設立。企業、商品のブランディングのために、デザイン思考をベースに、クリエイティブディレクション、アートディレクションを行う。CIデザイン、VIデザイン、広告デザイン、空間デザイン、プロダクトデザイン、エディトリアルデザイン、パッケージデザイン、ウェブデザインなど。